フリーランス・起業の先輩

家の前に掲げられた“のぼり旗”を見て気がついた。
母、いつからか起業してたわ……

小学校教員として定年を全うした母は、とてもとてもキャラが立つ。

だから、私たち4姉妹は、いつのころからか衛星のごとく母との距離を保ってきた。
というよりも、必要以上には近づかない。
母娘の買い物なんて話を巷で聞くと、ドラマの世界の出来事としか思えなかった。

私の母に対するスローガンは「近づいたら火傷する!!」だから。

けれども、母は私たち姉妹の選択に一度も口を挟んだことがない。
恐る恐る何かを打ち明けると、母はその選択を受入れて驚くほどの応援をする。

また母は、頼みごとに対して理由を一切聞かず、二つ返事で動く。
出し惜しみされたことも、愚痴を言われたこともない。
社会や地域につながり、根気よく、ハイテンションで動き続けている。

15年ほど前、父が脳梗塞で倒れた。
半身不随になった父に、医師は「もう治る見込みはない」と告げた。
少しでも……という可能性にかけ、父は埼玉から長野県の山奥の病院に転院した。

母は3ヶ月間休職し、病院のそばのアパートを借りて明るく看病を続けた。

現在、父が料理、洗濯と家事一切を仕切っている。

4姉妹に噛みつかれても平然と我が道を行く母のすごさに、私たちはようやく気づきはじめた。

少し背中の曲がり始めた後ろ姿に、ごめんと思う。

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