10年近く、
古民家の博物館施設に
勤務をしていた。
1ヶ所目は、
農家や商家を移築した、
野外博物館。
2ヶ所目は、
大きな名主の家を復原した、
体験型の施設。
どちらも「指定文化財」で、
茅葺きと木造建築が中心だったから、
一番の心配ごとは、”火事”だった。
最後は、防火管理者になった私。
消防設備に詳しくなっただけでなく
消防車のサイレン音にも敏感な体に仕上がった。
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職場では、
施設の管理、活用が主な仕事だった。
郷土史の講座講師として、
公民館などに出向くこともあった。
職場にはあまり資料がなく、
自宅から”資料”を持参することが常だった。
当時の生活文化を紹介するため
自分の研究テーマと絡めることも多かった。
だから講座が近づくと、
たくさんの本を自宅から職場へ運び、
構成を考えた。
ただ、
一冊の”古本”だけは、
自宅と職場を毎日、往復していた。
万が一に備えて、である。
その本は発行部数が少なく、
古本市場になかなか出回らない代物で、
やっと手にした”前編”だった。
不謹慎だが、
燃えた場合の後悔を
想像するだけでも辛かったのだ。
在職中、侵入事件で
真夜中に対応したことはあったが、
幸いにして≪火事の心配≫は杞憂に終わった。
今でも、
消防車のサイレンが鳴るたびに
かつての職場を思い出す。
宝物の古本は、
もう一歩も
家から外へ出ないであろう。
ちなみに
”中巻”と”下巻”は、
まだ本棚に収まっていない。
あなたの”火事に備えるモノ”は、何ですか?